季節のつかまえ方/生活の設計(2023)

春、そして新緑の季節。日本における新生活の始まり。
もっともっとこの名残惜しさに浸たっていたいのに、これまでの日常は終わりを迎え、新しい暮らしは刻々と始まっていく。まだまだおぼろげな足取りながらも、何とかひと月を乗り越えた休日の昼下がり。それぞれの道へと分かれた学校の友達や前の職場の人たちは今ごろどうしているだろうか。
東京を拠点とするスリーピースバンド〈生活の設計〉の1stアルバムはまさにそのバンド名が表すように、こうした出会いと別れの季節、そしてその少し先の薫風を感じさせるような作品だ。

期待と不安のない混じった気持ちを想起させるこのサウンドは、シュガー・ベイブ、小沢健二、サニーデイ・サービスなどに連なる日本語ポップスの系譜も感じさせるが、根本の参照元になっているのは60年代USのポップスやグッド・タイム・ミュージックであると感じた。インタビューにおいて作曲者の大塚は「60~70年代のロックやシンガー・ソングライターの作品を好きになって、そういう音楽を3人組のサウンドに落とし込めないかと思うようになったんです。 」と語っていた。
それが顕著に表れている楽曲が、アルバム最終トラックの「むかしの魔法」だろう。

この楽曲で歌われる「魔法」とはつまり「(先人たちの遺した)音楽」のことであるが、特にこの楽曲で参照元となっている楽曲はUSフォーク・ロック・バンド〈The Lovin Spoonful〉の楽曲である「Do you Believe in Magic?」だ。
歌詞中にも同タイトルは引用されており、楽曲最後の「Do you believe like I believe?」の繰り返しも同曲と同様の表現だ。


「すてきなメロディと/遠い国の言葉で/誰かが僕にかけた魔法はとけないまま」と自分たちが参照する音楽への愛情をストレートに表現する素直さはすっと胸を打つ。

休日の午前中にふとラジオから流れてきた音楽に、心が洗われたような経験はないだろうか。彼らの音楽は、正に魔法のように、吹き抜ける風のように、僕たちの暮らしに心地よく溶け込んでゆく。