kiss the gamblerインタビュー:「私は人を助けたい気持ちが強すぎた」

kiss the gamblerの2ndアルバム『私は何を言っていますか?』は発売と同時にプレス分レコードが完売するなど、反響を呼んでいる。
前作『黙想』同様、人々への優しい眼差しをたたえた歌詞や、自分自身の辛かった出来事をユニークな表現でポップ・ソングに昇華するライティングは健在である。それに加え、谷口雄(ex.森は生きている)をプロデューサーに迎えたアレンジ、辣腕のミュージシャンたちによる録音、かもめ児童合唱団の参加といった要素が、彼女の楽曲が持つ素直さにサウンド面での味わい深さを与えている。

このアルバムを携えた全国ツアーを予定しているというkiss the gamblerことかなふぁんに、1年振りのインタビューを行った。
(前回インタビュー:kiss the gamblerが語る音楽との出会い、『黙想』に込めた思い、そして芸術家としての矜持)

アルバム制作で気が付いたグッド・ミュージックの条件、言葉を扱う職業のシンガーソングライターとして向き合うことになった他者への言葉の用い方、果ては次作に向けてのアイデアまで、彼女の現在地を知ることができる会話になったと思う。アルバムを聴きながら、もしくは全国を訪ねる彼女のツアーに足を運ぶ前に、ぜひ一読してみて欲しい。
(kiss the gambler official HP)


全国を周りながら、新作の制作にも取り組んだ1年を振り返って

kiss the gambler 0523
ー去年、インタビューさせてもらってから1年ぶりの登場ですが、あれからどんな1年でしたか?

kiss the gambler : そうですね。まず岡林風穂さんと回った全国ツアーが楽しかったですね。
昨年インタビューをしてもらった頃はCOVIDの影響もあり、毎回十数人くらいの集客だったんですけど、ツアーを通して、最近はもっと大きな会場でやれるようになったなっていう成長はありますね。

ーうんうん。

kiss the gambler : 聴いていただける機会が増えたのは嬉しい一方、これまでは比較的年齢層が高めのお客さんに聴いてもらうことが多かったので、今後は若いお客さんにも見てもらえる機会を増やしていきたいですね。なので若いアーティストさんと共演できるイベントとかにも出てみたいです。
例えば、学生が学割で安く入場できるようなイベントとかに出てみて、1人でも2人でもいいからそういうところで出会えた人が聴いてくれるようになったらいいな。

ー全国ツアーを回りながら、2ndアルバム『私は何を言っていますか?』も作られていたんですよね。
拝聴させて頂きましたが、今回、曲が更に良くなって、ソングライティングの力が上がっているように感じました。


kiss the gambler
: 自分の好きなメロディーのつぼがわかるようになった気がします。

無意識にやってた部分もあるんですけど、今になって分析してみると、私の好きな曲って音階の近いところを連続で上がっていったり、下がっていったりするメロディーが多いなと思って。とても単純なメロディーなんですけど、大体隣り合わせの音を使ってる場合が多い。例えば、ユーミンの「翳りゆく部屋」の歌い出し部分とか、柴田聡子の「あなたはあなた」とか。私の曲で例を挙げると、ペペロンチーノのヴァース部分の〈しみ渡るペペロンチーノ〉の部分などもそうですね。


あと、急に低い音から高い音に行くような、そういうぶっ飛ぶみたいなメロディーも好きで。「くずもち」の〈会いたくても会わない/言いたいことは全て〉のように跳ねて遠くへ行く感じですね。

ーオトマノペっぽさがでるというか、子どもに童謡を読み聞かせているときの擬音の表現のような、そんなイノセンスさが出ているように感じました。かなふぁんの声とも相性の良い表現なのかもしれませんね。

kiss the gambler : あと今回、かもめ児童合唱団(※神奈川県三浦市を活動の本拠とする合唱団)にアルバムで2曲歌ってもらったんですけど、別の収録曲をメンバーの子が歌ってくれて、その動画をお母さんが送ってくれたんです。そしたらさすが、めちゃくちゃ歌が上手いので、原曲にないしゃくれが発生していたりして、今ライブで歌うときにはそのパターンを採用させてもらったりしてますね(笑)

誰かの助けになりたい気持ち、そして、対等な言葉と関係について

ーツアーや制作を通して、何かご自身や身の回りに変化はありましたか?

kiss the gambler : そうですね…日々変わっていくんですけど、人間関係への考え方がどんどん変わっていて、『黙想』を出したときからするとだいぶ違う人間になった感じがありますね。ひいては付き合う人達の変化もあったように思います。

ーどういう変遷をたどったのか、どう自分がどう変わったかを聞かせてもらえますか?

kiss the gambler : 2022年になって、自分で全国ツアーを組んで回ったり、呼ばれた企画で出会ったアーティストさんともうちょっと仲良くなってみようって自分から行動してるうちに、だんだん同性のシンガーソングライターさんが周りに増えてきて、相手の音源での演奏を頼まれたりするようにもなってきました。
で、悩み事があるときに、仲良くなったシンガーソングライターの友達に相談してみると、すごいいい言葉が返ってくることが多くて、「こういう言葉をくれる人ってすごく素敵だな」って思ったりしてたんです。
一方で自分も同じく言葉を扱うシンガーソングライターなのですが、誰かを助けてあげたいっていう気持ちが強すぎて、アドバイスがましいというか、上から目線で却って人を傷つけたりしてたのではないかと思うようになりまして。だから、自分の思いの伝え方を変えようっていう風に考え出したのが、2023年ですね。
2ndアルバムに収録した曲って実は、助けたいと思っていた相手が私の言うことに納得してくれなかったことを、曲にして昇華させたいという想いに起因しているものが多いんです。面と向かって言ったら、押し付けがましくって、お節介なんだろうなっていう言葉を制作時は全部曲にしちゃったんで、 それもまたどうだったのかなと今思い始めたところですね。
曲にすると、「その言葉が刺さった」って言ってくれる人もいるんですけど、それが刺さった人と、私は対等な関係になれないし…。

―なるほど、ある種アドバイスというか、こうしたらいいと思うよという気持ちで作られているから、それを正面から受け止めちゃう人にとっては楽曲の言葉が強すぎるというか。

kiss the gambler : うん、なんか思想みたいになっちゃう。
なので、言葉を与えるものと受け取るものみたいな関係よりも、もっとたくさんの人と対等な関係でいたいんです。これから書く曲では、そういったところを直していきたいって思っています。

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