–今では大久保薫さんとは一緒にお仕事をされるようにもなっていらっしゃるんですよね。レコーディングミュージシャンとして依頼を受けていくことになるのはどんなきっかけからだったんですか?
小林:自分はPARIS on the City!(以下、パリス)というバンドに所属しているのですが、ヴォーカルの明神が僕のギターの演奏動画を見て誘ってくれたのが加入のきっかけなんです。パリスの集客を増やしたい気持ちもあり、その後もこの動画投稿の活動を続けてたんですよね。で、モーニング娘。の〈泡沫サタデーナイト〉を弾いた動画を投稿してみたら、今まで誰も聴いてなかったはずなのにめっちゃ再生数が伸びたんですよ。
モーニング娘。’16
「泡沫サタデーナイト!」
のラスト58秒をカッティングアレンジしました!
楽しすぎて完全にゾーン入ってるヲタク#モーニング娘 #idol#guitar pic.twitter.com/IvsxDV4t2p— 小林ファンキ風格(Gaya yang funky) (@kfukaku_PARIS) June 3, 2019
それをきっかけにして急に「なんかギターですげーカッティングをするやつがいるぞ」って見られるようになって。そんなことをやっていたら、パリスで対バンさせてもらったこともあったJ-POPユニット、ONIGAWARAの斉藤伸也さんから「フィロソフィーのダンスの〈オプティミスティック・ラブ〉という曲の担当をすることになったんでギターを弾いてくれ」って頼まれたんです。依頼が来たときはパリスのスタジオに行くときだったんですけど、動揺しすぎてわけわかんなくなっちゃったのを今でも覚えてます。フィロソフィーのダンスは、アイドル楽曲が好きという文脈でもすごくファンクな楽曲があるグループなので、コピーもしていたし、見に行ってもいたので。「え?本物になれんの?」みたいな気持ちでした。
動画投稿が繋いだスタジオミュージシャンへの道
–この制作の翌年にあたる2021年に大森靖子さんの〈GIRL ZONE〉に参加されたのが大久保薫さんの楽曲への初参加ですね。これはどのような経緯からだったんですか?
小林:ハロプロの楽曲でも特に大久保さんの曲は大好きだったので、先に話した演奏動画でも弾いていたら僕のSNSをフォローしてくださって。しかも「めっちゃファンキーで最高でした!ぜひ今度お仕事しましょう」みたいなメッセージもくださって。とはいえ、そんな上手い話はないだろうと思っていたら、2ヶ月後ぐらいに「これやってみませんか?」みたいな感じで誘ってくださったのが〈GIRL ZONE〉でした。
大久保さんはとても自由にギターを弾かせてくださるんですよ。〈GIRL ZONE〉を納品した後に「小林くんが心から楽しいと思ったフレーズが正解なので自信持ってください」という趣旨のことを言ってくださったんです。それが自分の中でずーっと残ってて、あれからもまさにそういうフレーズを毎回採用してくださるので、大久保さんの楽曲での演奏は特に魂を乗せたものが録れているかもしれないです。
–そのころにはもうスタジオミュージシャンとして生計が立ちそうだったのでしょうか?
小林:いや全くでした。だから家族はやっぱり「よくわかんねぇバンドを続けてないでいい加減けじめつけて働け」みたいな感じでしたね。ただ、このころ、いろいろな縁で地元のラジオ局であるFM群馬さんに紹介してもらって、そこで超久しぶりにDa-iCEになった和田颯に再会するんです。で、彼の番組である〈Da-iCE 和田颯のハヤラジ〉に出させてもらって。そしたら自分自身も〈WAI WAI Groovin’〉という番組で月1のコーナーをやらせてもらうことになったりして。ところで、群馬って個人あたりの車保有台数日本一という車社会で、車がないと生きていけないんですよ。するとどういうことが起きるかというと、みんな絶対にラジオ聴いてるんですよね。みんな異常にFM群馬が好きで、車にもステッカー貼って走ってたりするんです。なのでFM群馬に出始めたあたりで小林家でも「お前なんかすごくね?」みたいな空気になって、応援してくれる風向きになったんですよね。FM群馬さんには超感謝してます。
–いい話ですね。こうした流れから紹介などでギタリストの仕事も増えていく感じですか?
小林:それが縁を通じたオファーみたいなものはほぼなくて、ありがたいことにみなさんが僕を個別に見つけて連絡をくださった感じでした。きっかけとしては、先ほどの投稿動画を見て、と言われることが多かったです。
–地道に続けていらっしゃる動画投稿が縁を繋いできたんですね。演奏する楽曲はどのように決めているんですか?
小林:この曲のギターをもっと前に出すとどう聴こえるだろう?という実験をしたくなった曲を選曲しています。例えば松浦亜弥さんの〈トロピカ〜ル恋して〜る〉という曲があるんですけど、僕はこれがまた狂おしいほど好きで。ただあややの声がメインのミックスになるので、ギターは鳴ってるんですけどちょっと音が小さいんですよね。なので、こういう楽曲でギターのカッティングを前に出したらどうなるんだろうってやってみたらめっちゃ楽しくて。そんなことばかりやっています。
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–アイドルやアニソンなど小林さんが多く関わられている楽曲は、広くマスに向けて届けることが求められていると思いますが、演奏に参加する中で、これらの楽曲に共通で見えてくる普遍性のようなものを感じることはありますか?
小林:「私も歌ってみたい!」とか「この踊り真似したい!」といった気持ちを呼び起こす曲がバズってるものには多いなと感じています。キャッチーで面白い世界観でやれる人というのが今の大衆に求められているのかなと思います。
–一方で、近年のアイドル楽曲はBPMが早く展開が複雑な曲が多い印象があります。ポピュラリティを得ている曲は、リスナーが再現するには難易度が高いようにも思えるのですが。
小林:先ほどの発言と矛盾するようですが、再現が難しい楽曲をどれだけ上手く真似できるか、みたいなところで価値判断される聴き方も、もう一方で増えているのかなというのは感じます。最近流行しているバラエティ番組のひとつに「音程をいかに外さずに歌えるかを競う」というものがありますが、これってまずメディアによって「歌唱が難しい楽曲」という共通認識が提示されて、その上でそれをうまく歌えるか?が問われているんですよね。昔ならカラオケで自分の好きな曲を上手く歌えるかどうか程度の話だったんだと思うのですが、今はSNSを通じて世界中が披露の対象になっている。そうした「難易度の認知」がコンテンツの価値を左右している部分もあると感じています。