「カワイイ×カッティング」プロジェクトとは?
–ご自身の制作物についてもお伺いさせてください。パリスでもなく、レコーディングミュージシャンとしてでもなく、オリジナルの自主製作作品を作られていますが、これはどのような作品ですか?
小林: 2021年ごろハマダコウキという作家と出会ったのですが、彼が「The VOCALOID Collection(ボカコレ)」というボカロ楽曲のコンテストに出した曲でギター弾かせてもらってから仲良くしていて、彼と一緒に「カワイイ×カッティング」というプロジェクトをやっています。可愛い楽曲かつ、キャッチーでファンキーなカッティングに合うような曲を作れる人を集めて音源を出そうというプロジェクトで、『cut(e)』というコンピレーションを現在2シリーズ発表しています。
–可愛らしい声の女性ヴォーカルという共通項を保持しながらも、バックトラックの演奏には色々な実験要素が感じられる、楽しいJ-POP集だと思いました。この作品に参加している皆さんはどのような方たちなのでしょうか?
小林:職業作家やボカロPなどが中心です。先のボカコレのときに出会ったキツネリというボカロPユニットや、フィロソフィーのダンスの楽曲制作にも携わっていた宮野弦士[3]くん、のちのパートナーになる馬瀬みさき[4]さんなどが参加しています。
-cut(e)に参加されている作家の皆さんに共通する音楽性はありそうですか?
小林:話を聞くと、自分と同じものを聴いてきているなと思いました。相対性理論、ハロプロ、パスピエ、解散してしまったバンドですがカラスは真っ白、など「ボーカリストが可愛らしい声で、演奏テクニックが高い」というバンドです。
–過去2回の発表に合わせてライブも開催されていますね。映像を拝見すると、盛況だった様子が伝わってきました。自主制作であるこのコンピはどういう流れで発見されていると感じますか?
小林:どこから見つけてくれたのか本当にわからないんですけど、思うのはあのオタクたちって、僕なんですよ。目の前に鏡があって、自分自身が写っているという感覚がありますね。というのは、僕もROUND TABLE featuring Ninoをきっかけにこの10年間、かっこいいカッティングが映える可愛らしい楽曲を集めてきました。自分のギターの個性にも気づき始める中で、同じように「カワイイ×カッティング」曲が好きという人たちって一定数いるだろうという確信を持つようになりました。ただ、それを一括りにしているコンテンツというのも意外とないんじゃないかというのも同時に感じてたんです。我々みたいなオタクは、こうした趣旨に近い曲を別々のアーティストから集めては、せっせとプレイリストを作ってきたわけなんです。それを一つのコンピとして楽しめるという作品は今までに多くは存在していないので、これをやったら僕みたいなオタクがいっぱい来てくれるんじゃないか、という気持ちはありました。
【感謝🙏】
冬期講習にご来校いただきありがとうございました❗️ライブのダイジェスト映像をお届けします✨
次のライブは8月10日、夏期講習で皆さんの元気な姿を観れることを楽しみにしています🌻#カワイイカッティング pic.twitter.com/zCnV6gWh8o— cut(e) 【カワイイ×カッティングコンピ】 (@kawaii_ccc) February 10, 2025
自らがギターを楽しむ姿勢でみんなにも楽しくなって欲しい
–最後に機材についても少しお伺いさせてください。今メインで使われているギターはどのようなものですか?
小林:Bruno GuitersのTN-295というギターを使用しています。僕がサークルに通っていたときにお世話になっていた楽器屋さんに西中さんっていうサークルのOBの先輩がいたんです。僕がいつもの感じでギターを直しに持って行ったら、見たことないギターが飾ってあって。「これなんすか?」って聞いたら「俺の夢でレスポールとストラトとテレキャス、それを全部合体させて、最強のギターを作るんだ」とか言ってて。面白い人だなぁと思いながら、ちょくちょく通っていたんですが、行く度にそのギターがどんどん出来上がっていって、それがBrunoになったんですよ。
音めっちゃいいし、かっこいいし、西中さんが弾くギターも彼の人柄もすごく好きだったので、その分身ってわけではないんですけど「これはいいですね!」ってなりまして。前の機体がもうボロボロで、丁度そろそろギターを買わないといけないタイミングだったんですけど、「せっかくだからお前の今使ってる白いフェンダーのストラト、それと同じ色でBrunoを作ってやる」と言って、今使っている白のBrunoを作ってくれたんです。だからベーシックの色に白はなくて、僕に合わせて白を作ってくれたっていうのが最初の一本です。
–では、小林ファンキ風格モデルみたいな感じなんですね。
小林:そしたら僕もすっかりこのギターに惚れこんじゃって、それで永遠に動画を上げまくってバンドもやるわけですよ。そしたらフレットが早々に削れちゃって。で、じゃあもう1本買おうとなって導入したのが赤い方のBrunoですね。これも以前に僕が持っていたグレッチの赤いギターと同じ色にしてくれたんです。
Bruno Guiters TN-295。ピックアップ間の1~3弦部分の擦り切れからもカッティングの多用が垣間見える。
–鳴りとしてはどういう特徴がありますか?
小林:設定の幅が広くて出力あります。簡単に言うと元気がいいというか、かなり音が大きいです。ストラトでは出せないような図太さがありつつも、逆にエッジの効いた音も出せるので、存在感のあるカッティングもできるというのがこのギターの攻撃的な部分での良さですね。一方でこのギターはP-90というピックアップを乗せていているんですが、これがスピッツの三輪テツヤさんの使ってるレスポールとたまたま同じものなんですよ。P-90をセンターで鳴らすと、スピッツみたいなクリーンなアルペジオが鳴らせるし、1本で多彩な表現に対応できるギターだと思ってます。
–期せずして小林さんの二面的な演奏の両方を出してくれるギターなんですね。エフェクターはどのようなものを使われていますか?
小林:LINE6のHELIX Floorというマルチエフェクターを使用しています。当初はコンパクトエフェクターを並べていたのですが、依頼仕事は現場現場ですごく色々な音色が必要になってくることもあって導入しました。いまは全部の現場で使っていますね。
–プレイ面で参考にしているギタリストはいますか?
小林:アルペジオ、という面からは三輪テツヤさんがやはり好きですね。僕がパリスをやっているモチベの大きなところを占めています。三輪さんが「草野マサムネさんの作る曲を映画だとするなら、その映画に劇判を入れるつもりでギターのフレーズを考えている」と仰っていたのを目にしたことがあるのですが、まさにこれをしたいという気持ちがあります。ギター担当として、曲に最適な雰囲気を作るパーツを入れていくということをやりたい。
–ではもう一方のカッティングが特徴的なギタリストではどうですか?
小林:好きなギタリストはたくさんいるんです。日本人であれば田中義人さん[5]や松原正樹さん[6]、鈴木茂さん(はっぴぃえんど)も好きですし、国外だったらスティーヴ・ルカサー(TOTO)、ジェイ・グレイドン(Airplay)やジョン・メイヤーなどなど。けど、誰か一人というと、生意気かもしれないですがいなんですよ。僕は漫画の『僕のヒーローアカデミア』が好きなのですが、主人公のデクくんは歴代のヒーローたちの能力を脈々と引き継いで戦うんです。僕も数々のギタリストたちの個性を自分の中に入れて、ワンフォーオール(One for all)するみたいな気持ちでカッティングしています。
更に言うと、ギターが上手い人って洗練されていくにつれて、フュージョンとかメタルとか、どんどんコアな方向を目指していくという印象があるんですけど、僕はずっとJ-POPが好きなので、面白くてキャッチ―な音楽が好きなんですよね。だから一番やりたいことは〈マツケンサンバⅡ〉とかでカッティングしたいんですよ(笑)でもギターうまい人ってきっとマツケンサンバでカッティングしたいって多分思わないじゃないですか?参考にしている特定のギタリストがいないというのは、こういう趣向があるというのも大きいかもしれないです。
–小林さんの演奏動画を拝見していても感じたことなのですが、とにかく演奏を楽しんでいる姿が印象的でした。自分が楽しんでいる姿で人を楽しませたいという思いが演奏にも出てるんだろうなというのを今日のお話で改めて感じました。「元気とユーモアのない社会に明るい未来はやって来ない」ですからね。(『僕のヒーローアカデミア』登場人物 サー・ナイトアイのセリフから引用。)
小林:幸いにして「ギターを弾いてる姿が楽しくて見ちゃうんだよね」と言われることが多いのですが、そういうものでありたいなと思います。演者も観客も一つになれちゃってるみたいなっていうゾーンに行けたときって、もう嬉しくて泣けてくる感じになるし、そういうことをやり続けていきたいんですよね。
[1] ハロー!プロジェクト関連のアイドルの楽曲を手掛けるアレンジャー、キーボーディスト
[2] ハロー!プロジェクト関連のアイドルの楽曲を手掛けるアレンジャー、ギタリスト
[3] 東京女子流、ラブライブなどの楽曲提供を手掛けるアレンジャー。ロックバンド7セグメントにも参加しており、ギターおよびキーボードを担当。
[4] テレビアニメプリキュアシリーズの楽曲制作などを手掛けるアレンジャー。小林のパートナーでもある。
[5] ケツメイシ、葉加瀬太郎、さかいゆうなどのサポートを手がけるギタリスト。
[6] 1970年代後半にかけてスタジオ。ミュージシャンとして活躍したギタリストで松任谷由実や松田聖子など、一万曲を越える参加楽曲を手掛けた。
-薦めたい作品:cut(e) vol.1 et 2-