TAKE CARE/シャムキャッツ (2015)

誰もが送る、何気ない毎日の輝きへ祝福を

 一人一人の人生はその人だけが経験するかげがえのない唯一無二のものである。しかしかけがえのない人生の中起こる出来事-大切な人との別れ、恋に落ちること、転職、入学、そして卒業など-には同じようなものがこの世界において凡百と存在する。その出来事のシークエンスこそが属性や背景を異にする人々をも貫いた世の潮流というものを作り出すのだ。
ポップでありかつオルタナティブである私達の何も起こらない毎日の集合体こそが『TAKE CARE』という作品で描かれる街の正体ではないかと私は考える。2014年、湾岸のコンクリートに捧げられた名盤『AFTER HOURS』で描かれたあの街は今日も穏やかに営みを続けている。時間の経過による変化をひっそりと携えて。

バス停に佇む女性とかつて最も蜜な時間を過ごした男の一場面・猪突猛進、大切な君しか見えない学生・高速道路の喧騒から冷静に世界へと焦燥を募らせる男性・どこか終末を予感しながら何も起こらない一日を過ごした26歳の女の子…。
リバーブを効かせたシングル・トーンのギターは作品全体に霞がかった湾岸の空気を生み出し、スミスやアズデック・カメラなどのネオアコを参照点としたきらめきある音作りとヴァースを繰り返すシンプルな構成はまるで、繰り返す毎日が持つ輝きを表現しているかのようだ。
そして本作の最後を締める「PM5:00」は、盟友、昆虫キッズの活動終了に捧げた曲だという。メロウネスなナンバーが主体を占める本作においてマイナー調のギターによる疾走感が特徴の趣が異なる曲だが、帰宅間近の公園の風景が青春の終わりを、「電車に乗らなくちゃ」というワードがここではないどこかへの意識を思わせる。前を見る彼らの意思を乗せて街は一日の終わりを迎える。

この街に人々が思い思いに生きる姿を通して、シャムキャッツは「豊かさを持つことの大切さ」その中で「お前はどうするんだ?」という問いかけを我々に投げかけているのではないか。
多様性の展開が苦手なこの国の人々は、ますます一元的な方向へ向かっているように思える。二項対立、左右の先鋭化、ガラパゴス化の進行。そんな不穏さが蝕む現実に「気を付けて(Take care)」と声をかけられた気がした。シャムキャッツが”easy”と名付けたイベントを立ち上げたのも、彼らなりのカウンターパンチなのかもしれない。

決して明るいことばかりではない。だが、諦める必要などどこにある。ジャケットの女の子が見つめるまなざしの先が、悲しみを受け止めつつもきらめきを湛えた「明日」であることを私は願って止まない。