ファン.そしてUSインディーとの遭遇
―次に本格的にピアノに向き合ったのは大学生になってからなんですね。
kiss the gambler：入学した後サークルに入ったんですけど、あわずに二年生の時に辞めて、そこから暇になっちゃったんですよ。で、カナダに親戚が住んでいたので遊びに行ったらファン.(fun.)の音楽を車でめっちゃ大爆音で流してて。それですごいファン.のファンになっちゃって。帰ってきて、もう聴いてるだけじゃ落ち着かなくて、カバーしちゃうみたいな。
で、iPhoneのボイスメモで録音してみたんですよ。聴いてみたら「自分ってこんな声なの？」ってショックを受けて。でも、「もしかしたら20歳の自分が出せる声は今しか録れないかもしれない」と思い、そこから誰かに聴いてもらうためではなく、自分という生き物の記録のために録音を始めたんです。ちなみに、kiss the gamblerという名前はこの時流れていたファンの「the gambler」からも取っています。
そこからレジーナ・スペクター(Regina Spektor)とかレンカ(Lenka)といったUSのSSWを聴くようになっていきました。彼女たちの方がピアノでコピーしやすかったというのもありますね。ファン.はクイーン(Queen)みたいな感じで壮大すぎて、ピアノ一台でカバーするのが難しかったんです。
―USインディーの音楽にはまっていったとのことですが、仏語圏で好きなアーティストはいますか？
kiss the gambler：フランソワーズ・アルディ(Francoise Hardy)³の「Tous les garçons et les filles」という曲が好きです。
大学卒業後、大学院に進学したのですが、そこのカフェテリアにグランドピアノがあって弾いてたら、全然知らないフランス人留学生が「100点！」って出してくれて（笑）その人が教えてくれたんです。
それが私の音楽に対する初めての承認だったので、kiss the gamblerの初めてのファンはフランス人とも言えるかもしれません（笑）
³フランスの歌手、女優。1962年に「Tous les garçons et les filles」でデビューし、イエイエスタイルと呼ばれたジャンルで人気を博した。
美容院のお兄さんがきっかけで始まった音楽活動
―kiss the gambler名義で活動を開始したのは「自作音源ラウンジ」というところでの活動がきっかけだそうですが、どんなことをしていたのか教えてもらえますか？
kiss the gambler：下北沢BlueMondayというカフェ・バーで毎月やっているイベントで、行きつけの美容師さんに誘っていただいたのがきっかけで通い始めました。DTMerたちが集まって、曲を披露するオフ会のようなものです（2022年6月に最終回となってしまって今はもう開催されていません）。大学のときは、共通点のある友達がなかなかできず、就職後も仕事以外にコミュニティがなかったんですが、やっとコミュニティに入れたっていうので頑張りたくなって。一か月に一回、曲を披露する形で、作曲の世界にのめりこんでいきました。
―DTMの使い方をそこで学んで、作曲するようになったという事でしょうか？
kiss the gambler：DTMに詳しい人たちもいましたが、私は積極的に質問をするというより、とにかくトライで覚えていきました。参加者の皆さんもだいたいオタクみたいな人たちで、どんっ！ってシンセサイザーもってきて、線がいっぱいついていて、えーすごい、みたいな。でも何やってるかは多分わかりあってないみたいな（笑）
作曲はDTMではなく、ピアノに座って、歌いながら同時に考えてます。部屋全体が鳴ってないと上手く作れないんです。なので、DTMだと生音じゃないからうまく作れなくて。
―自作音源ラウンジの参加から発展して、ライブもやるようになっていくと。現在のバンドメンバーとは相互に客演などもされていますが、どのようにコミュニティが形成されていったのでしょう。
kiss the gambler：まずSSWの櫻木勇人さん(Ba)と自作音源ラウンジで出会ったんです。彼からレコーディングを手伝ってくれないかと言われて行ったレコーディング・スタジオで、のちに『黙想』を録ることになります。この作品をバンド音源で録りたいなってなったときに、このレコーディング・スタジオを使ってる別のミュージシャン、カワサキユウキさん(Dr/boyish)やムラタユスラさん(Ba)、Natsunoさん(Gt/ARAM)といったメンバーと出会ったという感じです。
一方で、ギターでレコーディングに参加してくださってる岩出拓十郎さん(Gt)がやられているバンド、本日休演の周辺とも、ライブ活動をきっかけにつながりが出来ていきました。本日休演を磁場の中心に、周囲には別のバンドがいて…という形なんですけど、kiss the gamblerも最近活発に活動しているので、だんだんこの辺のコミュニティが一つの形を成し始めてるって感じがありますね。(後編へ続く)
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