90年代のわくわくよ、2014年によみがえれ!
フロントマンの池田智子(Vo)と曲作りの核を担う原田茂幸(Gt)は筆者と同じ年齢である。
僕らと同世代である人がこの「LISTEN TO THE MUSIC」を聴いたなら、初めて出会った音であるにも関わらず「どこか聴きなじみがあるな」と感じるかもしれない。それは90年代を通過してきた僕らが暮らしのなかで意図せずに聴き、浴びるようにして育った音楽 -つまり「J-POP」-を血肉に変えて、現代のシティ・ポップへと再構築したものこそがこの作品だからだ。
90年代当時、オリコンチャートを席巻しミリオンを連発したTKサウンドやビーイング系の楽曲は若者たちの間でこぞってカラオケの十八番として歌われ、夜通し盛り上がるBGMの定番だった。「今が楽しければいい」というある種の刹那主義/現場快楽主義とでもいうものが90年代の空気であり、この時代のJ-POPの良さだったのではと僕は思う。
『LISTEN TO THE MUSIC』はこうした楽天的な部分に突き抜け、音楽が持つ快楽の要素が弾けんばかりに溢れている。
はつらつとした歌詞や打ち込みとテクノ感のある音の粒から構成され、まるでJ-POPの無垢な部分を抽出したようなポップをふりまくタイトル曲「LISTEN TO THE MUSIC」や、ホーンのリズミカルな掛け合いが楽しい「day trip」、〈アイスクリームみたいに溶けそう〉と恋する乙女の心情をストレートに歌う「Baby I Love you」など、全編を通してキュートで迷いのない歌声。楽しく歌おう。楽しく聴こう。それだけに振り切っている、その潔さが気持ち良い。誰もが口ずさむことができるキャッチーな楽曲たちは360度全方向に瞬間を楽しむ幸せを放出している。
また彼らの青春時代を彩ったチャットモンチーなどのバンドから影響を受けていることや、現代のクラブ・ミュージックの要素が盛り込まれたことも大きい。それが今作を「この時代のシティ・ポップ」へ昇華させ、90年代への回帰に留めるのでなく四半世紀の成長過程を経て作られたものに仕上げている。
-2014年、今ありきとして消費された90年代の音楽たちは街の片隅で忘れられたように投げ売られ、いっときのブームとして命を終えたかに見えた。
だが僕らの音楽の原体験であり、僕らを形造ってきたこのJ-POPたちは今、シギー・ジュニアの手によって再び現代に定義されようとしているのだ。