NOT WONK/Dimen (2021)

成熟と衝動が溶け込み、次の支流へ流れ出る

初作『Laughin Nerds and a Wallflower』の初期衝動がほどばしる演奏でNOT WONKに出会った私が、本作『Dimen』に抱いた第一印象は「大人になったんだなあ」だった。

本作の幕開けとなる「Spirit in the sun」の色気とメロウを湛えた歌声、広い空間に響きわたるかのようなリバーヴ・ギターの美しい音色を聴いた時、デビュー・アルバムの頃と同じような気持ちで、ぶっちぎれた衝動を叩きつけるようなフェーズでももはやないのだろう、などと知った風なことを思ったのだ。
しかし、歳を食ってしまった人間がそんな風に決めつけてよい作品ではなかったことをここで謝りたいと思う。話を曲に戻そう。冒頭で穏やかだと断定していたこの曲は2:55~のフィルインをきっかけに不穏さをまとった、アグレッシブな展開へと変化していく。かと思えば4分を迎えたところではたと曲調は変わり、穏やかな空気をまとって、ゴスペル風のコーラスとともに終幕へと向かう。

そう、この曲だけに限らず、本作はどの曲も音運びの整合性を無視した、ぐちゃぐちゃな構成の曲が並べられた実験的な作品なのだ。だがそれでいて、各曲とも破綻することのないバランスを保っている。また、収録曲の色合いもジャズやポップ、ギター・ロックやシューゲイズなど様々な影響が垣間見れる鮮やかさだ。今作のリリースと併せて、 “Essences of dimen” というプレイリストが公開されているのだが、ここに並べられた曲群からも参照点の多様さが伺える。

「slow burning」はなにか祈りのように、喉から声を絞るようにして歌いだされる加藤修平(Vo)の歌唱が特徴的な楽曲かと思えば、途中で何とも洒落たサックス・ソロがかまされ、そして最後にはアコースティック・ギターと思われる素朴なギターのストロークが絡まっていく。
そして中盤の「Get off the car」でいよいよあなたは拳を握らずにはいられなくなるだろう。ザクザクと刻むようにかき鳴らされるギターにBPM180はあろうかという疾走感あるビート、終盤のシンガロング。こんなわかりやすくて骨太な曲がさっきまでの繊細な曲群と同じ作品内に同居するのかよ!と思わず笑いながら身体を揺らしてしまった。
かと思うと今度は「dimensions」での重いドラミングで、スケールの大きい曲があることを見せつける。この曲も途中で小刻みのカッティングとテンポ・チェンジが組み込まれ、曲ごとの中にのぞかせる表情のなんと多いことか。

そして終曲の「Your name」。甘く穏やかな空気感から始まり、最後にひたすら「Your name」と同じフレーズを繰り返すことで醸し出される切実さ。女性のコーラスでも「Your name」と問いかけのように同じ言葉が繰り返されることによって、”When I call your name, you know your own name(=人は誰かに呼ばれることで、初めて自分の存在を認識できる)”という考えを体現する曲構造になっている。

一つ一つを取ればメロウであったり、上品さを感じさせる。しかし、一枚を通して聴いたとき、本作の中にはパンクの衝動と成熟した精神性、音楽的なリファレンスとが見事に同居している、紛れもないパンク・バンドのアルバムだ。
「間違っているものに唾を吐きかけるだけがパンクではない」と加藤は言う。権力に対して中指を立て、否定の呪詛をがなり立てるのではなく、「どう行動すれば自分の理想をかなえられるのか」という考えこそがコンポーザーである加藤にとってのパンクなのだと。きっと本作は、そんな理想へ向かう道筋の途中にいる今の彼らを表現したアルバムなのだろう。
コロナ禍で延期されていた本作のリリース・パーティ「dimen_210919_biopolar_dup.wft」のアンコールで「もう出来上がったものをいつまでも引きずっててもしょうがないんで、今のモードの曲を披露しておく」と言って彼らはレナード・コーエンの「Hallelujah」をカバーして見せた。

今後も増していくであろう円熟味と、パンク・ロックのエネルギーとを携えて、彼らはまた新しい大河へと流れ込んで行くことだろう。