ぼくの/わたしのELLEGARDEN史

ぼくとあいつらの「きのうの終わり」に寄せて

Text by ゆっき

―俺の青春は、このアムバムをもってして終わりを告げるのかもしれないな。

2022年12月、ELLEGARDEN(以下エルレ)の16年振りの新作『The End Of Yesterday』を大西洋を望むアフリカの端で聴きながら、僕はそう思っていた。
16年前、エルレに心酔する高校生だった僕は、今はいわゆる国際協力といわれるような業界で駆け出しの仕事をしている。当時から「いつかは途上国に関わることを仕事にしたい」と思っていたのだが、何も持たなかったあのころの僕にとって、アフリカという土地は降り立つ日が来るのかもわからない、果てしなく遠い場所だった。
そう思えば、未だ駆け出しではあるが、今は夢見た道の半ばに立つことができているのかもしれない。

彼らと出会った、所在のなかった高校時代

僕がエルレの存在を知ったのはそんな高校生のとき、前作『ELEVEN FIRE CRACKERS』が発売される直前くらいの2006年の秋ごろだった。
先行シングルで出ていた「Salamander」に出会ったのがきっかけだったので、最初は「TV Maniacs」のような攻撃的でエッジが立っていているものや、「Surfrider Association」のように早いテンポから繰り出される爽快感ある楽曲に引き込まれたのだが、段々と「Missing」などに代表される、どちらかというと彼らの楽曲の中でも寂しさや弱さを歌う曲に傾倒していった。


エルレに出会った当時、僕はクラスに居場所のない、ういてて痛々しい生徒だった。今思えば、というか今でも、僕は人間関係から取り残されないようにしなければと考えがちな人間だと思う。

これでいいのかな。あの人から嫌われないかな。間違ったことしてんじゃねえかな。白い目で見られてんじゃねえか。そんなことを気にして、距離を詰めようと必死になって、コミュニケーションの距離感を間違えてしまったかもしれないと自己嫌悪する夜が、この歳になってもまあまあよくある。

加えて先述したように、世界の貧困とか不平等みたいなものに憤りながらも、学校の授業にすらまともについていけないガキだった僕は、それらに関わる力も知識もなくて、なんならそれ以前に自分の居場所も確立できずに半ばいじめられているようなひ弱な存在で、自分が挑みたいと思っている世界と自分の置かれている現実との長すぎる距離に打ちひしがれてもいた。

そんな僕にとって、エルレは「お前は一人じゃねえよ」と思わせてくれて、同時に「いつか思いは叶うさ」と励ましてくれる存在だった。
彼らは元来的には人を励ますために音楽をやっているようなタイプの人たちではなくて、自分たちが良いと思える音楽をやっているだけのバンドだと思うので、勝手に自分が励まされたと思っただけといえばそれまでなのだが、きっとエルレを聴いてきた人っていうのは、同じような気持ちにさせられたやつが多いんじゃないかな。

2007年3月に幕張メッセで開催された『ELEVEN FIRE CRACKERS TOUR 06-07』の最終日。
僕は初めてエルレのライブに行くことができた。居場所のなかったクラスで、エルレを共通の話題に話せるようになった軽音学部の女の子と一緒に行ったんだった。あれっきりほとんど関わることはなかったけど、今も彼女は元気だろうか。

モッシュ・ダイブが起こるようなライブに参加したのが初めてだったあの日。ダブル・アンコールの「金星」で、”恨まれることさえできない/そんな風になりたくないよ”と絶唱した細美武士(vo/gt)の表情。
終演後、汗で重たくなったツアーTシャツの感触と全身の痛みを、今でも思い出せる。

活動休止からの10年間

音楽を精神の拠りどころにしていくタイプのリスナーになっていた僕にとって、2008年のエルレの活動休止発表は本当にショックだった。
自分達のことを信じて音楽を作ってきた人たちが離散すること。その音楽、ひいてはバンドのあり方にある種人間関係の憧れを見出していただけに、そんな人らでも散ってしまうものなのかと思った。
本人達は「絶対戻ってくる」と言っていたが、それは本当に果たされるのか。”最後に笑うのは正直な奴だけだ”(金星)というその言葉を信じた僕たちに、それは本当なんだと示してくれる日が来るのだろうか。
この年から、ご多分に漏れず他の多くのファン同様、9月9日には「No.13」を聴くというルーティーンが僕の人生に加わることになった(同曲はSeptember 9thという歌詞から始まる)。

高校を卒業しても、「やっぱり自分は一人ぼっちなんだ」みたいな感覚が抜け切らなかったぼくが幾つもの夜を越えてこれたのは、駅から家までの街灯のない夜道で聴いてきた「スターフィッシュ」のギターのおかげだし、”That you are not the only one”と呼びかけたくれた「Make A Wish」のおかげだった。
「The Autumn Song」は、夏が終わって肌寒さを感じ始めるころに湧き上がる、どうしようもなく満たされなくてたまらない、うら寂しさの混じるあの感情を今でも代弁してくれる。
受け入れられないような辛い出来事や取り返しのできない間違いをしてしまったとき、”僕らはまた/今日を記憶に変えていける”と歌う「虹」の一節を信じて踏みとどまった日もあった。

受験に失敗して浪人してもなお、自分が目指す国際協力の世界への距離が縮まらなかった大学時代。周りで同じ世界を目指す同年代との差に挫けそうになっていたとき、その道に憧れ続けることを肯定してくれたのは「Wannabies」だった。
アフリカでの仕事をするために、後ろ盾もなく、有り金はたいて単身フランスへフランス語の勉強に乗り込んだとき。現地で出会い友人となったミュージシャンが別れ際不意に「これはお前の歌って感じがするから」と「Funny Bunny」を歌ってくれた瞬間は今でも忘れない(the Pillowsの楽曲。エルレによりカバーされている)。”君の夢が叶うのは/誰かのおかげじゃないぜ”という一節に何度ケツを叩かれたことだろう。

自分の人生に常に寄り添ってくれてるものであった彼らの楽曲は、10年間彼らが不在だった日々においても、僕にとって懐古の対象ではなく、常に人生において隣で鳴り続けている音楽だった。

―活動休止から10年が経った2018年。
僕は紅海に面する東アフリカの小さな国に住んでいた。目標としていた国際協力のはじめの一歩として、2年間の海外ボランティアに参加しているときだった。
あの日僕は、40度を越える気温の中、担当していた難民の子供たちとのアクティビティを終えたところだった。近くのいきつけのぼろい商店で買ってきたコーラを飲みながら、何か連絡がきているかなとのぞき込んだスマホに写されていたのは、驚きのニュースだった。

[ELLEGARDENが活動再開、8月にマリンスタジアム公演含む10年ぶりツアー]

何の前触れもなく告げられた知らせに、目を疑った。
そして気づけば僕は、帰る予定の無かった日本へ、一時帰国するための航空券を申し込んでいた。

活動再開の瞬間に立ち会えた夜とそれから

2018年8月15日、幸運にも活動再開のツアーの最終日に立ち会うことが出来た。
「人生はこの先も続いていく。今日が人生最高のライブだったって言うやつもいるかもしれない。けどそれは過去になって、この先も人生は続いていくわけだ。」
あの日、終盤のMCで細美はこう言っていた。
決してエルレの今後の活動そのものを明示した言葉ではなかった。けれど、なんとなくだが予感がした。すぐじゃないのかもしれないけど、きっとこの先も彼らに会える日が来ると。「間違いとかすれ違い」で切り離された彼ら(そして僕ら)が、会えなかった日々を記憶に変えて、再会することができたという事実が、そう信じさせてくれた(この日の曲は全て最高だったけど、中でも「Middle Of Nowhere」と「虹」は本当に刺さった)。

アフリカから見に行くことができた彼らの活動再開ライブ

あの日から4年。
16年前、高校生だった僕は今、国際協力といわれるような業界で駆け出しの仕事をしていて、今度は大西洋を望むアフリカの反対側に住んでいる。
昔みたいに好きなバンドの新作をフラゲできるような生活はできなくなった。だけど幸運にも、発売日当日には世界のどこからでも作品を聴くことが出来るような世の中になった。
早々に仕事を切り上げて家に帰るまでの車内。後ろには現地の同僚を乗せていた。この国の人たちのほとんどはエルレみたいなロックは普段聴きもしないだろうから、空気を読めば遠慮すべきだったかもしれない。
だがこの日ばかりは、僕は後部座席の彼らにお構いなく、高揚で震え気味の指先で、再生ボタンを押したのだった。

初めて再生した帰路の高速道路の風景

一聴して、少しこれまでとは手触りの違うアルバムだと思った。
特に前作の爆ぜ飛んでしまいそうな危うさとは違い、良い意味で力の抜けた感じがあると感じた。レコーディングを行った西海岸のキラキラとした空気感がパッケージされているみたいだった。
まだまだ新しい楽曲とは付き合いが浅い。この作品が自分の中でどういうものになっていくかはこれからのことだと思うが、恐らく彼らが自分達のためだけに制作したであろう、この作品のリリース日に、生きて立ち会えたことがとにかく嬉しかった。
同時に、過去の曲だけを聴いて過ごす日々が終わることに、これまでの自分の決して明るかったとは言えない、だけれども、間違いなくかけがえのない瞬間もあった青春は、今日を境にして終わるのかもしれないと思った。
新しい曲を歌うステージで歌う彼らと同じく、自分も新しいステージへ立たないといけないのかもしれない、と。

新作のタイトルは『The End Of Yesterday』。捉えようによっては彼らが休止したあの日の〈the end of yesterday〉に帰るという意味にも捉えられる。16年の時間を越えて、無敵だったやつらがその続きを見せようって言うんなら、同じだけの16年間、僕らがどんな時間を過ごしてきたかも見せつけてやらなくちゃなという気持ちになる。
高校生のときみたいに、どん底でくすぶっては、彼らの歌に励まされているだけというわけにもいかない立場になった。
それでもきっと僕は、これからもELLEGARDENというバンドの歌を聴き続けて、その度に、また次へ行かなきゃって思うんだろう。あれ、言ってること、結局あのころから変わってないような気がする。

だけど、それでいいんだろうな。
そしてまた、いつかはあの熱と涙と笑顔が充満する空間へ帰って、彼らの声に腕を振り上げるのだ。

それが叶う”昨日の終わり”が俺たちには待っている。

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